前回の裁判シリーズ第8回で取り上げた美容外科の判例では、診療行為に過失がなかったにもかかわらず、ホームページに掲載された誇大な広告表現が問題となり、最終的に100万円台の賠償命令が下されました。
この事例は「広告・HP表示の誤り」が、医院にとってどれほど大きなリスクを生むかを示しています。患者の信頼を損なうだけでなく、裁判や賠償責任につながり、経営の安定を揺るがす事態に直結するのです。
そこで今回は、院長がすぐに取り組める「広告・HP表示トラブルを防ぐための具体策」を整理しました。
クリニックのリスクマネジメントシリーズ:院内事故・インシデント対応
① 医療広告ガイドラインを全員で共有する
厚生労働省が公表している医療広告ガイドライン(PDFリンク)は、広告を制作・運用するうえでの必須ルールです。
禁止されている表現の例は以下のとおりです。
- 「必ず治る」「絶対に成功する」といった断定的表現
- 体験談や口コミを掲載して効果を誇張する表現
- 他院と比較して優良とする広告
これらを院長だけが知っていても不十分です。スタッフ全員で理解し、日常的に参照できるチェック表を作成し、院内で共有しましょう。
② 外注任せにしない体制をつくる
広告やHP制作を外部の会社に依頼する場合、担当者が必ずしも医療広告規制に詳しいとは限りません。
そのため、
- 外注に発注する際に「医療広告ガイドラインを理解しているか」を確認する
- 制作物の原稿やデザインを受け取った後に、必ず院長自身が最終チェックを行う
ことが重要です。
「外注が作ったものだから大丈夫」と任せてしまうのは危険です。最終責任を負うのはあくまで院長である、という意識を持ちましょう。
③ 「必ず」「絶対」「100%」を避ける文化
広告トラブルで多いのが、断定的な表現です。
たとえば「必ず白くなる」「絶対に痛みがない」といった表現は、患者の誤解を招きます。
代替案としては、
- 「多くの方に改善が見られました」
- 「効果には個人差があります」
といった注意書きを加えることが有効です。
こうした表現ルールを院内の共通文化にすることで、スタッフ全員が自然に「誇張しない」意識を持てるようになります。
④ 広告・HPの「監査ログ」を残す
万が一トラブルが発生した際、「誠実に管理していた」証拠があるかどうかが重要です。
- 更新前と更新後のデータを必ず保存する
- 誰がいつ承認したのかを記録しておく
これにより、裁判になった場合でも「ガイドラインを守ろうとしていた」ことを示せます。
Googleドライブや院内サーバーに「広告履歴フォルダ」を設けて管理するだけでも効果的です。
⑤ 定期的な「広告レビュー会議」
広告は一度作れば終わりではありません。医療法改正やガイドラインの見直し、または社会的な感覚の変化によって、以前は問題なかった表現が不適切とされることもあります。
そのため、3か月に一度程度のレビュー会議を設けることをおすすめします。
- 広告やHPの最新ページをチェック
- 最近の患者からの問い合わせやトラブル事例を共有
- 必要なら表現を修正
このサイクルを組み込むことで、リスクを未然に防げます。
⑥ 患者目線でのチェックを徹底
広告を作る側は専門知識があるため、患者の視点を見落としがちです。そこで、
- スタッフに「患者として見たときにどう感じるか」を確認させる
- 外部モニターやアンケートを用いて「誤解を招きやすい表現がないか」を検証する
といった第三者視点のチェックを取り入れると、誤認リスクを大幅に減らせます。
⑦ トラブル発生時の対応マニュアル
広告に関する苦情が寄せられた場合の初動対応も重要です。
- 当該ページ・広告を即時に停止する
- 苦情内容を文書に残す
- 誠実に説明し、必要に応じて返金や補償を検討する
このような対応を事前にマニュアル化しておけば、現場が混乱せず、結果として裁判リスクを大幅に下げられます。

まとめ
広告やホームページの表現は、医院にとって治療内容と同じくらい重要な信頼の基盤です。診療に過失がなくても、誇張や不正確な表現があれば患者の期待を裏切り、裁判や賠償責任に発展しかねません。
したがって、ガイドラインを正しく理解してスタッフ全員で共有し、外注任せにせず院長が責任を持って確認する姿勢が欠かせません。また、断定的な言葉を避けて注意書きを添えることや、監査ログの保存・定期的な見直しによって、広告運用を「誠実で検証可能なもの」にする必要があります。
さらに、患者の立場からの見直しを取り入れ、万一の際は速やかに広告を停止し誠実に対応することが、医院の信用を守る最後の砦となります。こうした仕組みを日常的に整えることこそが、医療経営における広告リスクを最小化し、長期的な安定につながるのです。
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