医療裁判というと、多くの方が「治療ミス」や「説明不足」を原因として思い浮かべるのではないでしょうか。もちろんそれらは代表的な争点ですが、実際には診療そのものに問題がなかったにもかかわらず、スタッフの言葉遣いや態度といった日常的なやり取りが裁判の引き金になることもあります。
医院の受付や電話応対は、患者にとって「最初に接する医院の顔」です。どんなに医療技術が高くても、スタッフが不誠実な対応をしてしまえば、患者の不信感は一気に高まり、その感情が裁判という形で表れることさえあります。
今回ご紹介するのは、まさにその典型的な事例です。
医療機関の裁判シリーズ:スタッフ対応の不誠実さが裁判に発展
判例の概要
2010年代後半、関西地方にあるクリニックでの出来事。患者は予約の混雑により長時間待たされ、不満を募らせて受付で「こんなに待たされるなんておかしい」と声を上げました。
そのとき、受付スタッフは冷たい態度で「順番ですので仕方ありません」と突き放すような返答をしてしまいました。さらに、患者が食い下がった際には「そんなこと言われても困ります」とまで言ってしまったのです。
この一件がきっかけで患者の怒りは頂点に達し、「精神的苦痛を受けた」として後日弁護士を通じて慰謝料請求を提起。訴訟は地方裁判所に持ち込まれました。
裁判所は、診療行為そのものに問題がなかったことを認めつつも、受付での対応が患者に不必要な精神的苦痛を与えたと判断。結果として、医院側に100万円超の損害賠償を命じる判決が下されたのです。
ここで注目すべきは、診療自体には全く過失がなかった点です。医院としては「ただの待ち時間トラブル」と思っていた出来事が、最終的には裁判に発展し、経済的さらに 評判へのダメージを残すこととなりました。
判決から読み取れる教訓
- 接遇の重要性
医院にとってスタッフの態度や言葉遣いは「医院の品質」そのもの。患者にとっては医療の専門性よりも、まずは安心できる応対が信頼の基盤となります。 - 苦情対応マニュアルの必要性
苦情や不満に直面したとき、スタッフ個人の判断に任せると感情的な対応になりがちです。あらかじめ「傾聴→謝意→解決提案」のフローをマニュアル化し、誰が対応しても一定の誠実さを保てる仕組みが必要です。 - 記録の大切さ
苦情対応のやり取りは「その場限り」で終わらせず、日時・内容・対応者を必ず記録しましょう。これが後の裁判で証拠となるだけでなく、院内で振り返り改善を図る際の貴重な情報資源になります。
経営へのインパクト
このような裁判は「金額的には大きくない」と思われがちです。しかし実際には、金銭面以外にも重大な経営リスクを伴います。
- 金銭的損失:賠償金に加え、弁護士費用や裁判対応にかかるスタッフの時間が医院の財務を圧迫します。
- 評判の低下:患者とのトラブルが裁判に発展したという情報は、SNSや口コミで広まりやすく、地域の信頼を大きく損ないます。
- スタッフ士気の低下:一人のスタッフの対応が原因で裁判になった場合、職場の空気は重くなり、他のスタッフが委縮したり、離職につながる可能性もあります。
医療機関が取るべき対応策
現場リーダーの配置
トラブル対応を現場任せにせず、対応の最終判断ができるリーダー(主任やマネージャー)を明確にしておくことで、スタッフが迷わず行動できます。
接遇研修の定期実施
スタッフ一人ひとりの言葉遣い、態度、表情が患者体験を左右します。定期的に外部研修を取り入れ、応対の基本をアップデートし続けることが重要です。
苦情対応マニュアルの整備
苦情を受けたときの基本姿勢(傾聴・謝意・誠実な説明)をフローとして明文化し、全スタッフが同じ対応を取れるようにします。マニュアルは机上の空論ではなく、ロールプレイで実践させると効果的です。
情報共有と記録の徹底
苦情や不満の内容は、その場で終わらせるのではなく、対応履歴として残し院内で共有します。記録は裁判での証拠となるだけでなく、組織の改善材料としても役立ちます。

まとめ
医療裁判は治療ミスや説明不足だけが原因ではありません。今回の事例が示すように、受付や日常の一言が裁判の火種になることもあります。
医院を守るためには、接遇研修や苦情対応マニュアルの整備、記録の徹底といった一見地味な取り組みこそが欠かせません。誠実な対応を組織として仕組みに落とし込み、リスクマネジメントを実践することが、結果的に患者からの信頼を高め、医院の安定経営につながります。
▶どうすれば良いか?は対応するリスクマネジメントの記事を見る
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