医療機関のリスクといえば、患者からのクレームや診療行為に伴うトラブルを思い浮かべる方が多いでしょう。確かに診療関連の訴訟は医院経営に直結する重大な問題です。
しかし実際には、スタッフとの労務トラブルも医院を揺るがす深刻なリスクです。解雇や残業代請求といった労務訴訟は、金銭的な損失だけでなく、職場の雰囲気や医院の評判に大きな影響を与えます。
今回は、実際に医療機関で起こった労務トラブルの裁判例をもとに、その教訓を整理します。
医療機関の裁判シリーズ:解雇・残業代請求 ― 労務トラブルが医院を揺るがす
事例紹介:解雇と残業代をめぐる裁判
ある地方都市の歯科クリニック。10名ほどのスタッフを抱える中規模の医院での出来事です。勤務していた歯科衛生士Aさんに対し、院長は「勤務態度が悪く、患者への説明も不十分」という理由で解雇を通告しました。
ところが、解雇理由を裏付ける記録はなく、改善指導や注意喚起の履歴も十分に残されていませんでした。加えて、Aさんは「毎日遅くまで残業していたのに残業代が支払われていない」と主張し、未払い残業代とともに解雇無効を訴えて裁判を起こしました。
裁判所は、
- 解雇理由の合理性が証明されていない
- 就業態度の記録や指導履歴が存在しない
- タイムカード等で労働時間を管理していなかった
と判断。結果として「解雇は無効」とされ、未払い残業代および慰謝料などを含めて約500万円を医院側が支払う判決が下されました。
判決から読み取れる教訓
- 解雇には合理性と相当性が必須
解雇は経営者の自由裁量ではなく、法律上は「客観的に合理的な理由」と「社会的に相当な手続き」が求められます。感情的な判断や記録のない主張では法廷で通用しません。 - 記録の不備は致命的リスク
注意指導の内容や本人の改善の有無を記録していなければ、いくら正当な理由があっても証拠能力はゼロ。就業態度やミスの記録、面談履歴を残しておくことが不可欠です。 - 労働時間管理は医院の責任
「本人が自主的に残っていただけ」という主張は通りません。労働時間を適切に記録・把握し、残業代を支払うのは雇用者の義務です。タイムカードや勤怠システムの導入は必須といえます。 - 労務トラブルは評判への大きな ダメージを伴う
判決そのもの以上に、解雇無効や未払い残業代といった情報はスタッフや地域に広まりやすく、医院の評判に悪影響を与えます。スタッフの信頼を失えば、患者対応にも影響が及びます。
医院への示唆
この事例は、スタッフとの労務トラブルがいかに経営全体を揺るがすかを示しています。未払い残業代や不当解雇は、金銭的負担だけでなく、内部の士気低下・人材流出・地域からの信頼低下を招きます。
特に医療機関では、スタッフの定着と信頼関係が患者満足度に直結します。スタッフが安心して働ける環境を整備することは、単なる「労務管理」ではなく経営リスクマネジメントの一部です。
解雇や労働条件に関する判断を感覚や個人裁量に任せず、ルールと証拠を整えた仕組みで運用することが医院を守る唯一の方法です。
医療機関が取るべき対応策
労務トラブルは「起きてから対処」では遅すぎます。医院が日常的に備えておくべき対応策を整理します。
- 就業規則と契約書の整備
役割や勤務条件、解雇事由を明文化した就業規則と、雇用契約書を必ず交わすことが第一歩です。あいまいな取り決めは後の紛争を招きます。 - 勤怠管理システムの導入
タイムカードやクラウド勤怠管理を使い、労働時間を客観的に記録することが不可欠です。残業代支払いの根拠を示せる体制を作りましょう。 - 注意指導の記録化
口頭注意ではなく、改善指導シートや面談記録を残し、本人に確認を取ることが重要です。後から「指導していない」と言われるリスクを防げます。 - 解雇は最終手段と認識する
すぐに解雇ではなく、まずは配置転換や研修など改善の機会を与える姿勢が必要です。裁判所は「改善努力の有無」を重視します。 - 第三者相談窓口の設置
スタッフが直接院長に言いづらい場合もあるため、社労士や外部コンサルを窓口とするのも有効です。トラブルの早期解決につながります。

まとめ
医療機関における労務トラブルは、患者との訴訟に比べて目立たないかもしれません。しかし実際には、記録の欠如や曖昧な判断が命取りとなり、医院経営に甚大な影響を与えます。
- 解雇は合理性と相当性が必要
- 指導・勤務態度は必ず記録に残す
- 勤怠管理はシステムで客観的に行う
- 労務トラブルは経営リスクで評判へのダメージも大きい
医院が長期的に信頼を得るためには、診療の質と同じくらい「スタッフ管理の質」が重要です。
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