医療機関にとって個人情報の管理は「診療の質」と同じくらい重要です。カルテ、検査データ、レントゲン画像などが外部に漏洩すれば、患者との信頼関係は一瞬で崩れます。しかも情報は一度流出すれば回収不可能で、患者からの訴訟や高額賠償に直結します。
本記事では、首都圏のクリニックで起きた情報漏洩裁判を紹介します。技術や治療内容ではなく、USB紛失やFAX誤送信といった「管理の不備」が争点となり、賠償責任が認められた事例です。医療機関が学ぶべき具体的な教訓を整理します。
医療機関の裁判シリーズ:個人情報漏洩で訴訟に発展
判例判例の概要
首都圏のあるクリニックで、患者カルテが誤って外部にFAX送信されるという事故が起こりました。さらに追い打ちをかけるように、職員が自宅に持ち帰ったUSBメモリを紛失し、その中には患者氏名・住所・診療情報が多数保存されていました。
結果として複数の患者情報が外部に流出する事態に発展しました。患者側は「プライバシー権の侵害」として提訴し、精神的苦痛を訴えました。
裁判所は医院側に十分な情報管理体制がなかったと認定し、患者1人あたり数十万円、総額で数百万円の賠償を命じました。漏洩自体は一瞬の過失から始まりましたが、その管理不備が裁判で決定的な要素とされました。
判決から読み取れる教訓
証拠として残す体制が不可欠
情報漏洩を完全に防ぐことは現実的に困難です。しかし「漏洩を防ぐための努力を日常的に行っていたかどうか」が法廷で問われます。USBの持ち出し制限や送信チェック体制などを運用し、さらに「規程に従い実施した記録」を残すことが不可欠です。証拠がなければ、どれほど注意していたとしても過失と見なされてしまいます。
教育不足も責任対象になる
システムや規程を整備していても、それを理解し運用するのはスタッフです。教育や研修が不十分であれば「制度はあっても形骸化している」と見なされます。裁判所は「規程を作ったかどうか」ではなく「規程が実際に機能していたか」を確認します。年1回以上の研修、テストやチェックシートによる理解確認などが欠かせません。
漏洩リスクは想定以上に重い
個人情報が漏洩した場合、患者の精神的損害は比較的容易に認められます。1人当たりの損害額は数十万円規模でも、対象患者が複数に及べば賠償総額は一気に膨らみます。診療の過誤よりも、管理不備による漏洩リスクの方が重く評価される場合すらあります。つまり「情報管理」は臨床技術と同じくらいの重さを持つリスク領域なのです。
経営へのインパクト
この判例が示すのは「一度の情報漏洩が医院経営を根底から揺るがす」という現実です。
- 経済的損失:賠償金だけでなく、弁護士費用、裁判対応に割かれるスタッフの労働コストが重くのしかかります。診療以外の事務負担も増し、日常業務に支障をきたします。
- 風評被害:報道やSNSで瞬時に拡散され、「情報管理が甘い医院」というイメージが地域社会に定着します。新規患者の激減に加え、既存患者の流出も避けられません。
- スタッフへの影響:現場では「自分が責められるのでは」という心理的負担から士気が低下し、離職につながるケースもあります。特に若手スタッフは「ここで働くのは不安」と感じやすく、人材定着に悪影響を及ぼします。
金銭的な負担以上に「信用の失墜」が最大の打撃であり、回復には数年単位の時間を要するのが現実です。
医療機関が取るべき対応策
情報管理規程の整備
USBや紙資料の持ち出しを原則禁止し、メールやFAX送信には必ずチェック工程を入れるなど、基本ルールを明文化しましょう。規程は紙で配布するだけでなく、日常業務に落とし込んで初めて効果を発揮します。
スタッフ教育の継続
規程があっても現場に浸透していなければ意味がありません。年1回の研修に加え、日常朝礼や会議で定期的に確認する仕組みを作ることで「文化」として根付かせます。
証跡の残る運用
送信記録や廃棄記録を必ず残し、必要に応じて監査できるようにしましょう。裁判になった際には「適切な運用をしていた」証拠が最大の防御策になります。
苦情処理マニュアルの導入
情報に関する苦情は小さくても放置せず、記録し、対応状況を残すことが重要です。初期対応を丁寧に行うだけで訴訟に発展するリスクを大幅に下げられます。
第三者認証の取得
外部からの信頼性を高めるには、第三者による認証制度を活用することも有効です。弊社では医療機関向けに「JAPHICマークメディカル」の取得を推奨しており、情報管理体制を客観的に示すことで、患者や取引先に安心感を与えることができます。
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まとめ
今回の判例は、診療技術ではなく「情報管理の甘さ」が裁判の焦点となったケースでした。個人情報は患者にとって人生に直結する財産であり、その取り扱いを誤れば数百万円規模の賠償に発展することも珍しくありません。
医療機関が学ぶべきは、「情報漏洩を完全に防ぐことは不可能だが、最小化する努力を示せるかどうか」が裁判で問われるという点です。
規程整備・送信チェック・アクセス制限・教育研修といった基本を「文化」として定着させることが必要です。経営者自身が率先して危機感を持ち、全スタッフと共有することで「守る医院の文化」が育ちます。最終的にそれが、患者からの信頼を積み重ね、医院の持続的な成長につながるのです。
▶ではどうすれば良いか?リスクマネジメントの記事はこちら
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