患者さんにとって、治療費は非常に大きな関心事であり、不安を抱きやすい領域です。診療技術や設備に満足していても、費用の説明が不十分であれば「高い」「聞いていない」といった不信感が一気に高まります。その結果、通院中断、未収金、クレーム、さらには訴訟といった深刻な事態へ発展することも少なくありません。
医療事故や治療の失敗とは異なり、費用説明不足は「日常の小さな油断」から発生します。だからこそ、経営者・院長にとっては早急に改善すべき重大なリスクポイントです。
本記事では、費用説明不足が招くリスクを整理したうえで、医院が実践すべきリスクマネジメントの仕組みを解説します。
クリニックのリスクマネジメントシリーズ:費用説明不足を防ぐ仕組みづくり
1. トラブルの典型パターン
費用をめぐるトラブルは、決して特殊なものではなく、日常診療のなかで誰にでも起こり得ます。代表的なパターンを確認してみましょう。
- 追加費用の説明不足
治療の途中で材料変更や追加処置が必要になったが、事前に費用を伝えていなかったため、請求時に患者が驚き、納得せずトラブル化する。 - 同意書や見積書の不備
治療計画は説明したが、費用に関する書類が不十分で、患者が「聞いていない」と主張した場合、医院側の証拠が弱くなる。 - 自由診療に関する誤解
保険診療と自由診療の区分があいまいで、患者が「保険でできると思っていた」と誤解し、支払いを拒む。 - 治療費総額の不透明さ
初回に「だいたい○万円程度」と口頭で伝えただけで、実際には総額が大きく膨らみ、患者の信頼を損なう。
これらはどれも、診療の質や技術そのものに問題がないにもかかわらず発生する点が特徴です。つまり「説明の不足」が最大の原因となっています。
2. 費用トラブルが招くリスク
費用説明不足は、医院にさまざまなダメージをもたらします。
- 未収金の発生
納得していない請求は支払い拒否につながりやすく、最終的には回収不能となるケースもあります。小規模な医院では数十万円の未収金でも経営に大きな影響を及ぼします。 - 患者の信頼喪失
「お金のことをしっかり説明してくれない」という印象は強く残り、口コミや紹介に直結します。誠実な対応をしていても、費用の不透明さだけで悪評につながることがあります。 - 法的リスクの増大
説明不足や記録の不備は、万が一裁判に発展した際に致命的です。手術や治療自体に問題がなくても「説明義務違反」とされ、多額の賠償を命じられる事例も報告されています。 - スタッフへの負担増
費用トラブルは、受付や事務スタッフにクレーム対応を押し付けることにもつながります。スタッフのモチベーション低下や離職リスクを高める要因にもなります。
費用説明を軽視することは、単なる「患者対応の不満」では済まされず、経営全体に悪影響を及ぼすのです。
3. 医院が取るべきリスクマネジメント
費用説明不足を防ぐには、「仕組み化」と「記録の徹底」が欠かせません。個人の努力やその場の対応に頼るのではなく、組織としてルールを整えることが重要です。
● 見積書と説明のセット運用
治療計画を提示する際は、必ず見積書をセットにして説明します。費用の根拠や支払い時期も含め、患者が理解できる形にすることで、後からの誤解を防ぎます。
● 追加費用の明文化
想定される追加費用(再診料・材料費変更・特別処置など)は、事前に「発生する可能性がある」と説明しておきます。同意書に記載しておけば、患者の納得感が高まり、トラブルの芽を摘むことができます。
● 説明記録の徹底
口頭での説明だけでは証拠が残りません。カルテに「費用説明済み」と記録し、同意書に署名をもらうことで、説明義務を果たしたことを形に残せます。
● 複数スタッフでのダブルチェック
医師だけでなく、受付やコーディネーターが説明を補足する体制を整えると安心です。患者が「誰からも同じ説明を受けた」と感じることで信頼性が増します。
● デジタルツールの活用
予約システムや患者管理ソフトに費用見積もりを登録し、患者がスマホから確認できる仕組みを導入すれば、透明性が飛躍的に高まります。
4. 経営面でのメリット
費用説明の徹底は、リスクを避けるだけでなく経営改善にも直結します。
- 患者数の安定化:安心感が継続受診を促し、リコール率が向上する
- 紹介・口コミの増加:「費用が明確で安心できる医院」という評価は、集患力を高める
- スタッフ負担の軽減:費用をめぐるクレームが減り、診療や接遇に集中できる
- 法務リスクの低減:裁判や弁護士対応に割くコストを削減できる
「守りのリスク管理」であると同時に、「攻めの経営戦略」にもつながるのが費用説明なのです。

まとめ
費用に関する説明不足は、診療技術に問題がなくても患者との信頼を崩壊させる重大リスクです。未収金や悪評、さらには訴訟に発展することも珍しくありません。
逆に、見積書や同意書を徹底し、追加費用の可能性を事前に伝え、記録を残すだけで、リスクの大半は防ぐことができます。
患者が「安心して任せられる」と感じられる医院は、自然と継続受診や紹介につながり、経営も安定します。小さな説明不足を放置せず、仕組み化して徹底することこそ、現代の医療機関に欠かせないリスクマネジメントです。
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