クリニック経営において、もっとも避けたいトラブルのひとつが「モンスターペイシェント」による過剰要求や理不尽なクレームです。一人の対応に時間も精神力も奪われ、スタッフが疲弊し、院内の雰囲気や診療効率にまで悪影響を及ぼします。
しかし、モンスターペイシェントは「突然現れる存在」ではありません。多くの場合、医院側の対応次第で“生み出されてしまう”ものです。
本記事では、院内に明確なルールと接遇方針を設定し、“患者さんを適切に守りながら医院も守る”ための対応策を解説します。
モンスターペイシェントを増やさない院内ルール
モンスターペイシェントは“対応の隙”から生まれる
モンスター化する患者さんは、ごく普通の患者さんだったはずです。しかし、医院側の対応に「曖昧さ」「不一致」「担当者による対応差」があると、不満や支配意識を助長してしまいます。「言えば何とかなる」という誤った成功体験も、トラブルを加速させます。
● スタッフごとに対応が異なる
● ルールがあるのに徹底されていない
● 怒った人ほど優先される空気がある
● 過度に謝ることで上下関係ができる
● 一度譲歩すると期待がエスカレートする
ルールの欠如は、患者さんと医院双方を不幸にします。
“優しさ”と“譲歩”は別物です。曖昧さはトラブルの温床になります。
モンスター化を防ぐための院内ルール
明確なルールは、スタッフを守り、誠実な患者さんを守り、医院全体を守ります。「どうするか」を事前に決めておくことで、感情で動かず一貫した対応ができます。
● 言い分は「一度だけ」冷静に聞く
● 暴言・威圧的態度には即時対応を切り替える
● 「特例」は作らず、全員に公平な対応を徹底
● スタッフが“我慢”で対応しない仕組み
● ルール違反時は院長・管理者に即エスカレーション
患者さんに甘くするのではなく、公平にすることで良い関係が保てます。
モンスター化を防ぐ鉄則は「特別扱い」を作らないことです。
対立を悪化させない“説明力”と思考法
強い態度の患者さんほど「自分が正しい」と確信しています。そこで対立を避けるために必要なのは“感情でなく理性で伝える”姿勢です。「悪いのは医院ではなくシステム」だと理解させるだけで対話の矛先が変わります。
院内のルールを「お願い」ではなく「全員に共通する決まりごと」として示すことで、一方的な要求は通りづらくなります。「従わせる」のではなく「納得させる」説明が、モンスター化を未然に防ぐ鍵になるのです。
スタッフを守る“対応手順と組織の盾”
モンスターペイシェント対応は、受付やスタッフ個人の力量で乗り切るべきではありません。院内体制として「個人で抱えない仕組み」を整えることで、心理的負担を分散できます。
● 「1人対応」ではなく複数名で対応
● 話が長引く前に管理者へ交代
● 同席・録音・記録で“言った言わない”を防ぐ
● 暴言・脅迫は「診療拒否ライン」を設定
● 院内表示や事前説明でトラブルを回避
トラブルに強い医院は、“人”ではなく“仕組み”で守っています。
ルールは「守らせるため」ではなく「守るため」にあるのです。

まとめ
モンスターペイシェントは“個人”の問題ではなく“院内運営の問題”から生まれます。曖昧な対応は助長し、一貫した対応はトラブルを抑えます。
大切なのは、特別扱いを避け、スタッフが萎縮せず、患者さんとの間に適切な距離感を保つこと。院内ルールは「患者さんにも医院にもフェアであるための基準」です。
接遇とは、ただ優しくすることではなく、秩序を守り安心を提供すること。それが結果として、医院全体の信頼と安全を築くことにつながります。
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