チーフに人事権限を持たせるべきか——この問いは、医院の組織づくりで必ずぶつかる論点です。
人事権限を与えれば現場の統率は強くなりますが、線引きを誤ると不公平感や対立を生み、チーフ本人も疲弊します。逆に、権限を与えないまま「まとめてほしい」と期待すると、名ばかり化し、注意や指導だけを担わされて板挟みになります。
重要なのは、誰にどこまで任せ、院長が何を保持するかを「役割・権限・責任・手続き」で設計することです。
本記事では、チーフに持たせるべき人事権限の範囲と、現場が安定する決め方を整理します。
チーフに“人事権限”をどこまで持たせるべきか
1. まず整理すべきは「人事権限」の中身
人事権限と一口に言っても、内容は幅広く、混同されがちです。最初に“どの種類の権限を指しているのか”を分けないと、誤解と反発が起きます。
- 注意・指導(態度、ルール違反、接遇など)
- 評価(行動評価、業績評価の入力・推薦)
- 配置・シフト(担当、ローテ、育成担当の割当)
- 採用・解雇(面接同席、採否、契約更新の判断)
この4つは重みが全く違います。「同じ人事」ではなく、段階別に扱う必要があります。
2. チーフに持たせるべきは「現場運用に必要な権限」から
基本は、現場を回すために必要な範囲をチーフに持たせるのが合理的です。ここを院長が抱えすぎると決裁が詰まり、逆に放任すると暴走や不公平につながります。
- ルールに基づく注意・指導(事実ベース)
- 日々の業務配分・担当決め(透明な基準)
- OJTの設計と進捗確認(育成の実務)
- 小さな改善の決定(現場の機動力)
一方で、賃金や雇用に直結する領域は慎重に扱うべきです。「統率に必要な権限」と「処遇決定の権限」は分けるのが原則です。
3. 最大の失敗は「責任だけ背負わせる」こと
チーフに人事権限を持たせる際に最も危険なのは、権限の線引きを曖昧にしたまま「指導だけ任せる」状態です。
注意はさせるが、評価に反映できない。問題行動を止めろと言うが、配置や担当変更の決定権がない。現場の不満の矢面には立たされるのに、院長が最後はひっくり返す。これが続くとチーフは疲弊し、周囲からは“嫌われ役”として孤立します。
人事権限は「やらせる仕事」ではなく、「判断に伴う責任を支える仕組み」とセットで付与すべきものです。
チーフが潰れる医院は、権限を与えず責任だけ負わせます。
線引きの曖昧さは不信を生み、組織の温度を下げます。人を守るのは、制度設計です。
4. 最適解は「権限の段階付与」と「手続きの固定化」
人事権限は“全部かゼロか”ではなく、段階的に付与するのが現実的です。加えて、恣意性を減らすために手続きを固定します。
- ① 指導権限:指導の手順(記録・期限・再面談)を統一
- ② 評価関与:チーフは事実入力、最終評価は院長が決裁
- ③ 配置権限:基準(スキル・相性・負荷)を明文化して運用
- ④ 処遇権限:昇給・更新・解雇は院長+会議体で決定
ポイントは「誰が決めるか」だけでなく「どう決めるか」です。仕組みがあれば、チーフもスタッフも納得感を持てます。

まとめ
チーフに持たせる人事権限は、現場統率に必要な範囲から段階的に設計するのが基本です。
注意・指導、配置、育成といった運用権限は持たせやすい一方、賃金や雇用に直結する決定は院長が保持し、会議体や手続きで透明性を担保すべきです。権限の線引きが曖昧だと、チーフは責任だけ背負い、現場は不信を抱えます。
人事権限は、強い人に渡すものではなく、仕組みとして運用するものです。役割・権限・責任・手続きをセットで整えることで、チーフは“嫌われ役”ではなく、現場を支える要になります。
その設計こそが、組織の安定と成長を両立させます。
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