必要な情報がなかなか出てこない、問いかけても短い返事だけ──そんな「多くを語らない患者さん」は、医療現場では決して珍しくありません。寡黙だからといって理解していないわけではなく、むしろ深く考えていたり、相手を慎重に見ていたり、緊張が強かったりと、その背景はさまざまです。
接遇において重要なのは“沈黙=理解していない”ではなく、“沈黙=心理的な何か”と受け取る視点です。
今回は、多くを語らない患者さんが抱えやすい心理と、安心につながる接し方を整理していきます。
多くを語らない患者さんの心理を理解する
「多く語らない」行動の裏には理由がある
言葉が少ない患者さんは、コミュニケーションを避けているのではなく、別の心理が働いているケースがほとんどです。背景を理解すると、適切な接し方が見えてきます。
● 緊張しやすく、慣れるまで言葉が出ない
● 話を遮られた経験があり慎重になっている
● 医療の専門的な話に苦手意識がある
● 自分の気持ちを言葉にするのが得意ではない
● 「迷惑をかけたくない」という遠慮が強い
沈黙のまま進めてしまうのは危険で、適切な“声のかけ方”が必要になります。
沈黙の多さは「理解できていない」ではなく「言葉にしづらい」と捉えると接し方が変わります。
言葉を引き出す“やさしい問いかけ”の工夫
多くを語らない患者さんには、問いかけの方法を工夫することで安心して言葉を発してもらえることがあります。押し付けず、選択肢を示すスタイルが効果的です。
● 「痛みはありますか?」より「どんな時に痛みを感じますか?」
● 「大丈夫ですか?」より「気になるところは少しでもありますか?」
● 選択肢を出して「①〜②〜③のどれが近いですか?」と聞く
● 表情をしっかり見て、反応を受け止めながら進める
● 否定せず「教えてくださってありがとうございます」を添える
質問の仕方が変わるだけで、患者さんの安心感は大きく向上します。
言葉が少ないときこそ“非言語”が重要
多くを語らない患者さんほど、こちらの表情・姿勢・声のトーンに敏感です。
沈黙を焦って埋めようとすると、患者さんはさらに緊張したり遠慮したりして本音を話せなくなります。少し斜めの姿勢で穏やかに向き合い、柔らかい声のスピードで説明することで、安心して話せる環境が生まれます。また、ゆっくり目線を合わせる、うなずく、メモを取りながら聞くなどの“受け止める態度”は大きな安心材料になります。
「急かしていません、聞く姿勢があります」というメッセージを非言語で伝えることが大切です。
伝わったか確認しながら進める“ゆっくり丁寧な説明”
多くを語らない患者さんは、理解していても言葉にしないことがあります。そのため説明は「少しずつ・区切って・確認しながら」進めることが効果的です。
● 「ここまでで不安な点はありませんか?」と丁寧に区切る
● 重要な点は短く繰り返し伝える
● 一度に詰め込みすぎず、見通しを示す
● 紙・図・パンフレットなど視覚情報を活用
● 最後に「不安な点は後からでもお知らせください」と添える
“理解しやすい説明”が、寡黙な患者さんの安心と信頼を大きく後押しします。
丁寧な説明は“安心して話せる関係づくり”にもつながります。

まとめ
多くを語らない患者さんは、さまざまな心理背景から慎重になっていることが多く、決して非協力的なわけではありません。
問いかけの工夫、非言語での安心感づくり、ゆっくり丁寧な説明──こうした接遇の積み重ねが、患者さんに「ここなら話してもいい」と思っていただける土台になります。
沈黙を恐れず、寄り添う姿勢を示すことで、より深い信頼関係を築くことができます。
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