医療機関の裁判シリーズ:広告・HP表示のトラブル

医療裁判というと、多くの方が「治療ミス」や「説明不足」を原因とするものを思い浮かべるのではないでしょうか。もちろんそれらは代表的な争点ですが、実際には診療そのものに過失がなくても、広告やホームページの表現が原因となり裁判に発展するケースも少なくありません。

特に美容医療や自費診療分野では競争が激しいため、患者の注目を集めようとするあまり誇大な表現を使ってしまい、結果的に訴訟リスクを抱えることがあります。医院のホームページや広告は「集患の武器」であると同時に、「経営リスクの火種」ともなり得るのです。

今回ご紹介するのは、まさにその典型的な事例です。

目次

判例の概判例の概要

2010年代後半、首都圏の美容外科クリニックのホームページには「必ず白くなる」「痛みはゼロ」「効果は一生続く」といった断定的な表現が並んでいました。患者はその広告を信じて施術を受けましたが、実際には効果が限定的で、副作用も生じてダウンタイムが長引きました。

患者は「虚偽広告により誤解を与えられた」と主張し、弁護士を通じて損害賠償を請求。訴訟は地方裁判所に持ち込まれました。

裁判所は診療行為自体に大きな過失はなかったことを認めつつも、広告の表現が「合理的根拠を欠き、患者に誤解を与えた」として医院側の責任を認定。施術費用の返還に加え、100万円台の慰謝料を命じました。

ここで注目すべきは、医療の技術や判断には問題がなくても、広告の言葉遣いだけで裁判に敗訴する可能性がある点です。医院としては集患目的のキャッチコピーであっても、法的には「患者を誤導する虚偽表示」と見なされるリスクがあるのです。


判例で認められる賠償額の目安

実際の判例をみると、広告・説明不足が争点になった美容外科・美容皮膚科のケースでは、100万円台〜300万円程度の賠償命令が下されることが多いです。

したがって「広告だけが争点」の場合は100万円前後の判決が比較的多いと考えていただくのが適切です。

判決から読み取れる教訓

医療広告ガイドラインの徹底遵守

日本では「医療広告ガイドライン」が定められ、広告やホームページに記載できる表現が厳しく制限されています。

この判例は、ガイドラインを軽視した表現がいかに大きなリスクになるかを示しています。

※詳細は厚労省サイト「医療法における病院等の広告規制について」をご参照ください。

外注依存の危うさ

ホームページ制作を外部業者に依頼する場合、業者がSEO効果やインパクトを優先して強い表現を盛り込むことがあります。しかし、最終的な責任は医療機関にあるため、院長・理事長自らが最終確認を行わなければなりません。

注意書きと説明責任

広告やHPに「効果には個人差があります」「副作用の可能性があります」といった注意書きを添えることは、患者の誤解を防ぐ最低限の工夫です。説明責任は広告段階から始まっていると考えるべきです。


経営へのインパクト

このような広告トラブルによる裁判は、直接的な金銭賠償だけではなく、医院経営に深刻な影響を及ぼします。

広告トラブルは「軽微な問題」と思われがちですが、実際には金銭・評判・組織風土すべてにダメージを与える重大な経営リスクです。


医療機関が取るべき対応策

広告チェック体制の構築

外部業者任せにせず、制作段階で必ずガイドラインに照らし合わせ、最終確認は院長・理事長自身が行う体制を整えましょう。

院内研修で意識を統一

広報担当や受付スタッフに対しても、広告・説明責任の考え方を共有することで、院内全体で「誇大表現を避ける」文化をつくります。

リスクヘッジとしての記録化

ホームページや広告を更新する際は、チェックシートや確認記録を残すことで、後に「適切に確認をしていた」と主張できる材料になります。

患者目線での点検


医療裁判は治療行為や説明不足だけが原因ではありません。今回の事例が示すように、ホームページや広告のわずかな表現が裁判の火種になることがあります。

医院を守るためには、

  • 医療広告ガイドラインの遵守
  • 広告チェック体制の整備
  • 記録の徹底
  • 患者目線での表現点検

といった、一見地味な取り組みが不可欠です。誠実で透明性のある広告運用を仕組みに落とし込むことが、患者からの信頼を高め、安定した経営につながります。

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