偉人の言葉から学ぶ医院経営シリーズ｜「測定できないものは改善できない」ピーター・ドラッカー

2025年11月4日

「経営学の父」と呼ばれるピーター・ドラッカーは、数多くの経営者や組織に影響を与えた偉人です。彼の名言の中でも特に有名なのが「測定できないものは改善できない」です。この言葉は、数字やデータで把握できなければ、現状を正しく評価することも、改善に向けた具体的な行動を取ることもできない、という厳然たる真実を突いています。

医療機関においても同じです。「患者さんに満足していただきたい」「スタッフがやりがいを持てる環境をつくりたい」といった理想はあっても、測定や記録がなければ、その実現度合いは分かりません。漠然と「大丈夫だろう」と思っていたものが、実は大きな課題だったというケースも少なくないのです。

本記事では、ドラッカーの言葉を手がかりに、クリニック経営における「測定」の重要性と、改善につながる実践方法を考えてみます。

「測定できないものは改善できない」ピーター・ドラッカー

偉人の言葉の背景

ドラッカーは企業経営において「成果を出すためのマネジメント」を重視しました。その基本にあるのが「事実に基づく判断」です。感覚や思い込みで動くのではなく、数値や指標を用いて現実を把握し、改善のための道筋を描く。これがドラッカー流の経営哲学です。

彼が「測定できないものは改善できない」と語った背景には、多くの組織が「目標を掲げるが測定はしていない」という現実がありました。例えば「顧客満足を高める」と言いながら、顧客アンケートを取っていなかったり、「社員を大切にする」と言いながら、離職率や面談履歴を記録していなかったり。こうした状況では、改善のしようがないのです。

医療現場への応用

この考え方を医院経営に置き換えると、次のような領域が浮かび上がります。

患者満足度
「患者さんは満足しているだろう」と感覚で判断するのではなく、実際にアンケートやE-Pサーベイなどを通じて測定することが重要です。回答データがあって初めて、「待ち時間が長い」「説明が分かりやすい」など、強みや課題が明確になります。
接遇・ホスピタリティ
「スタッフの接遇を改善したい」と考えるなら、チェックシートを用いて定期的に評価することが有効です。数値化することで、改善の進捗や教育効果が見える化され、モチベーションにもつながります。
経営指標
売上や利益といった財務数値だけでなく、「メンテナンスの定着率」「新規患者の紹介率」「スタッフの勤続年数」などのKPIを測定することで、持続的な成長を支える基盤を確認できます。

実践のためのポイント

測定を形骸化させないためには、次の3つのポイントが欠かせません。

目的を明確にする
「何のために測定するのか」をスタッフ全員が理解していることが大切です。単なる数字集めではなく、改善や患者満足につながる行為だと共有することで、協力が得やすくなります。
シンプルな指標から始める
最初から複雑な測定を導入すると、現場の負担が大きくなります。例えば「待ち時間」「再診率」「アンケート回答数」など、分かりやすくすぐに集められる指標から始めるのが現実的です。
定期的に振り返る
測定した数値を「集めっぱなし」にしてはいけません。定期的に院長やリーダーが振り返り、スタッフと共有し、改善アクションを決めることが欠かせません。

医院での活用事例

実際に導入した医院の例を挙げましょう。

ある歯科医院では「接遇5原則チェックシート」を導入。スタッフ同士が月1回相互チェックを行い、改善点を話し合うことで、短期間で患者アンケートの評価が向上しました。
別のクリニックでは「E-Pサーベイ」を用いて患者満足度を測定。導入前には不満の声が表面化していませんでしたが、データを取ると「説明不足」「電話対応の待ち時間」が課題として浮かび上がり、改善のきっかけになりました。

このように、測定によって「感覚」から「事実」に基づいた改善が可能になるのです。